韓国政府は日本政府に何も要求していない
前回の続きです。
2020年5月12日、大韓民国政府は日本に対して、「輸出規制?」の問題を解決するための方法と、日本の立場を5月末までに明らかにせよと要求したと「発表」しました。
というニュースで、もう一つ重要な点は「発表」の部分です。
なんと韓国政府は日本政府に立場を明らかにせよと要求したと「発表」しましたが、実際に日本政府に要求はしていないんですね。
外交ルートを飛ばしてマスコミ発表
通常国家間の交渉では、まず事務レベルで協議を行い、大筋の合意の後、外交担当者(首相や外相)同士の話があって、その後、その内容がマスコミに発表されます。
しかし、今回の件は、韓国政府から日本政府に何の申し入れもありませんでした。韓国政府が日本政府に何も言ってこない段階で、いきなり文大統領が、韓国のマスコミに、「日本政府に要求した」と発表したというわけです。
韓国国内は大いに盛り上がっていたようですが、韓国が勝手に発表した期限になっても日本政府からは何の回答もありませんでした。
あたりまえです。日本政府は何も言われていないのですから、何も答えようがありません。完全に韓国の独り相撲です。
韓国の取った謎の行動の意味
これは外交的には何の意味もない行動に見えます。では韓国はなんでこのような行動をとったのでしょうか?
もちろん国内の反対派対策という意味はあるでしょう。
韓国のような儒教国では、面子(めんつ)というものが大変重要視されます。
国民の大半が自国が日本より格上と思っている状況で、文大統領が日本政府に本当にホワイト国除外の撤廃を要求し、それを蹴られたら、文大統領は面子をつぶされることになります。
しかし、何も言わなければ、「なぜ格下の日本にそんなに弱気なんだ。日本を恐れているのか」と言われてしまいます。
仕方がなく、大統領は、実際には日本政府に何も言わないまま、「日本に要求した」
と韓国マスコミに「発表」だけしたというわけです。
これなら日本に拒絶される恐れなく、「自分は格下の日本に命令したぞ」というポーズをとることができます。
結局期限が切れたら、ばれるじゃないかって?その時はその時だろうということでしょう。しかし文大統領は、ひそかにもう一つの期待を抱いていたはずです。
それは、期限までに、日本の側からホワイト国除外の撤廃を申し出てくれるのではないかという期待です。
1980年以降、韓国から日本に何かを申し入れたことは一回もない。
しかしこの状況で、日本の側からホワイト国除外の撤廃を申し出る理由は一つもないように見えます。
なんで文大統領はそんな馬鹿な期待を抱いたのでしょうか?判断能力を喪失していたのでしょうか。そうではありません。
日本は実際に1980年以降、2012年に至るまで、そのような行為を繰り返していたからです。文大統領が今回も同じことをしてくれるのではないか、という淡い期待を抱いたのも、根拠のないことではなかったのです。
慰安婦問題の場合
日本がそのような行為を行った例は無数にありますが、代表的なところを1つだけ挙げておきましょう。みなさんご存じの従軍慰安婦問題についてです。
この問題は、50年代からちょこちょこ言われてはいたのですが、本格的に国際問題に発展したのは、よく知られているように、1982年に行われた朝日新聞の吉田清治氏の著書に関する捏造報道の後です。
韓国のマスコミや、韓国政府はこの問題について非難を繰り返しました。その後、日本政府が公式にこの問題について謝罪と賠償を行ったのは、91年の宮澤喜一内閣の時です。
宮沢首相(当時)は91年1月に、首相として公式に慰安婦問題についての謝罪を行い、翌92年1月に訪韓、当時の韓国の盧泰愚大統領と会談し、慰安婦問題について謝罪し、真相についての調査と、韓国への支援を約束しました。
もちろん宮沢首相の訪韓の直前には、韓国の意を受けた日本のマスコミが、慰安婦問題についての一大キャンペーンを行っていました。
その後調査結果が発表され、93年8月の河野談話のあと、95年7月のアジア助成基金設立へとつながっていくわけです。
さてここで改めてこの流れを振り返ってみましょう。
事件は朝日新聞の捏造報道キャンペーンによって引き起こされました。日本と韓国のマスコミが一斉に騒ぎ立て、韓国政府は日本を非難します。しかしこの時点で韓国政府から日本政府への外交ルートを通じた公式な申し入れは何もありません。
宮沢首相の韓国訪問の1か月前、示し合わせたように、朝日新聞などが慰安婦問題のキャンペーンを張ります。
宮沢首相は訪韓し、盧泰愚大統領と会談し、そこで日本の方から、従軍慰安婦問題について切り出し、謝罪を行い、調査と賠償を約束しているのです。
当時の日韓外交の基本形
従軍慰安婦の例はその時代の日韓外交の典型的なパターンをよく示しています。
まずは日本国内のマスコミが、何らかの問題をでっちあげます。それを受けて韓国のマスコミが騒ぎ立てます。
韓国政府はそれに対して断固抗議し、謝罪を賠償を申し入れた、とマスコミに発表します。もちろん発表しただけで、実際に正式ルートで日本政府に抗議したわけではありません。
日本政府は韓国に、日韓首脳会談を申し入れます。この間事務レベル協議が行われ、首脳会談の内容と、日本からのお土産、すなわち金銭的援助のすり合わせをします。
首脳会談が行われます。その席で日韓首脳は初めて正式に、当該の問題について協議します。
協議といっても、まず日本が、その問題について切り出し、謝罪の言葉を述べ、金銭援助を申し出るだけです。
韓国政府はマスコミと結託し、日本に抗議した、とマスコミに発表するだけで、あとは勝手に日本のほうから謝罪と賠償を申し入れてきていたのです。
なんといびつな外交でしょうか。これが行われていた1980年から2012年までの期間を、私は「暗黒時代」と呼んでいます。
文政権の「夢よもう一度」
もうお分かりですね。日本は12年に第2次安倍政権が発足してから、暗黒時代に行われていたいびつな外交に終止符を打ちました。
それでも韓国は、かつての労せずして甘い汁を吸えた時代の幻想に取りつかれているのです。
文大統領が、日本にホワイト国除外の撤回を申し入れたと発表し、実は何も申し入れていない、という行動は、暗黒時代に通用していた手法を、そのまま踏襲しただけなのです。
現代では当然通用しない手法なのですが、夢よもう一度、というところでしょうか。
暗黒時代外交の背景
このような、世界史上類を見ないいびつな外交は、韓国にとっては大きなメリットがありました。
韓国側にとってはこれは大変おいしい話です。何か文句をつければ黙っていても、日本の首相がやってきて、問題を解決し、お金を置いていってくれるのですから。
また金銭的利益以外にも、韓国側には、このいびつな外交の大きなメリットが存在していました。
それはまたしても、儒教に基づく日本と韓国との間の上下関係の確認です。
儒教世界では、何かを協議するとき、必ず格下のほうが格上のほうのもとに出向き、各下側から解決策を提示しなければなりません。
そしてその解決策は格上側の意に沿うものでなければならないのです。
日韓の間でどんなに問題が紛糾していて、韓国がその問題の解決を望んだとしても、韓国の側からその解決を日本政府に申し入れることは、自分が格下と認めることになってしまうのです。
ですから絶対に(格下の)日本の首相のほうから韓国にやってきて、(格上の)韓国大統領に話を切り出し、(格上の)韓国が満足する解決策を切り出さなければ、ならないと、韓国人は考えているのです。
そのため、韓国政府は絶対に自分の方から日本政府に問題の解決を申し入れることはしませんでした。申し入れていないのに、申し入れた、とマスコミに発表し、それを見た日本側が自分の方からお土産を持って解決を申し入れてくるのをじっと待っていたのです。
WTO提訴とGSOMIA打ち切りの意味
さらに韓国は、自分たちが勝手に決めた回答期限が迫ってくると、もしも日本の回答が不十分、もしくは回答がなされない場合には、WTOに提訴する、さらにはGSOMIA打ち切りもありうると、発表(だけ)していました。
これらは2つとも、日本にとっては痛くもかゆくもありません。
ホワイト国除外はそもそも輸出規制でも何でもないのですから、WTOに提訴されても痛くもかゆくもありません。これは日本国内の輸出手続きの問題であって、そもそも2国間に貿易問題自体が生じていないのですから。
また、GSOMIAを破棄して困るのは、韓国で合って日本ではありません。北朝鮮がミサイルを発射した情報を、韓国はGSOMIAの規定を用いて、日本から入手しています。
逆に日本が韓国から入手する情報は何もないのです。
しかし韓国は、それをわかっているとしても、やはり、それをネタに日本を脅そうとしてくるわけです。全く脅しになっていないのですが・・・。
これはもちろん、同じようなことが暗黒時代に行われていたからです。
日本への脅迫は「助けてくれ」のサインだった
例えば過去に何度も日本と韓国の間でスワップ協定が結ばれています。もちろん円とウォンでスワップをしたとしても、得をするのは韓国だけです。
円は国際決済通貨の一つですが、ウォンは単なるローカル通貨です。スワップによって円を得た韓国は、外国への支払いにこれを用いることができますが、もしも日本がウォンを得たとしても、何の役にも立たないのです。
暗黒時代において、韓国は、外貨が足りなくなると、政府がマスコミに、「日本は通貨対策のために通貨スワップを必要としている。わが国はそれを受け入れる用意がある」と発表していました。
それを聞いた日本政府は、「ああ、韓国が通貨対策のためにスワップを必要としているんだな」と察して、首脳会談を申し入れ、その席で、スワップ協定を結びませんかと、日本の側から話を切り出していたわけです。
もちろん日本の側は、通貨スワップなど必要としていません。
「日本は通貨スワップを必要としている」という言葉は、「韓国は通貨スワップを必要としている、日本よ、助けてくれ」という意味の暗号のように使われていたのです。
これはようするに、(上位の)韓国から(下位の)日本に、助けを求めることは許されない、という、韓国の側の儒教的理由からなされていたことです。
これに日本政府が付き合って、いちいち日本の側から援助を申し出ていたというわけです。まあ、よくこんなめんどくさいことをやっていたものです。
日本の側の態度の変化
しかし韓国はちょっとやりすぎました。まるで打ち出の小づちであるかのように、日本に際限なく謝罪と賠償を要求し続け、金をむしり取る姿に、さすがの日本人も堪忍袋の緒が切れたようです。
明らかに風向きが変わったのは、2012年の李明博大統領の天皇兵が侮辱発言だったと思います。あれによって、いままで「まぁ、いいんじゃないの」と言っていた年配の方々が、「これはおかしい」と思い始めました。
民主党政権が終わり、第2次安倍政権になって、日本ははっきりと韓国に対する態度を返還しました。
韓国に対して、無制限の謝罪と賠償をやめ、韓国が行ってくる不条理な要求に、はっきりとノーというようになったのです。
韓国の態度は 変えられない
しかし韓国の側は、日本の態度の変化に対応することができません。
韓国の行動の背後にあるのは、儒教的な上下関係の観念だからです。経済状況が変わっても、日本の態度が変わっても、彼らが儒教徒である限り、変えることはできません。
日本からの資金供与が止まり、新型コロナが蔓延し、経済的に苦境に陥ったとしても、「我が国は大変な危機に陥っています。日本さん、助けてください」とは、口が裂けても言えないわけです。
かわりに、もはや通用しなくなった、暗黒時代の遺物にすがるしかありません。
ホワイト国除外を撤回すると日本に要求した、と「発表」し、日本の側から撤回を申し出てくることを期待し、
「日本よ、助けてくれ~」という代わりに、解答がなければWTOに提訴する、SOMIAも破棄する、と言って、全く効果のないセリフで日本を「脅迫?」するしか道がないというわけです。