香港国家安全法がついに施行
2,020年7月1日、ついに中国において香港国家安全法が施行されてしまいました。これによって今まで一国二制度の名のもとに保障されていた、香港における自由は大幅に制限されることになります。
香港国家安全法の施行によって、香港はどう変わるのでしょうか?この法の主な特徴をあげてみます。
1.香港における反政府行為を犯罪とする。最高刑は無期懲役。有罪となったものは公職に立候補できない。
2.中国政府は香港に新たな保安施設を設立し、独自の法執行官を配置する。施設も法執行官も香港自治政府の管轄外となる。
3.裁判官は、中国に対して直接的な責任を負う香港特別行政区行政長官が任命できる。捜査から判決、処罰に至るまでの全てを、中国大陸の当局が引き継ぐこともできる。
中国政府が気に入らない人物を自由に葬り去ることができる
ひとつひとつは、ああ、そうか、という規定ですが、これが3つ合わさるととんでもないことになります。
現在の香港自治政府や、行政長官のシステムは残るのですが、そのほかに中国政府が香港内に香港自治政府の力の及ばない保安施設を作り、法執行官を配置します。ということは、行政長官や自治政府はこの執行官のいうことに従わなければならないということです。
行政長官が裁判官、陪審員を任命しますが、陪審員は任命しないこともできます。つまり行政長官が執行官の命によって任命した中国政府の配下の裁判官が、秘密法廷で、被告を自由自在に有罪にできます。
さらにはこの手続きを中国内地の裁判所が代行することもできるわけです。「できる」となっていますが、実際にはすべての裁判が代行されるでしょう。
これらが組み合わさるとどうなるでしょうか?
たとえば反政府デモが行われたとします。中国内地から来た法執行官が、このデモを犯罪と認定し、参加者を逮捕します。執行官の命で、行政長官が秘密裁判の実行を宣言し、手続きの代行を中国内地に依頼します。
参加者は中国内地に連れて行かれ、誰も見ていない法廷で無期懲役の判決が下り、その後死ぬまで刑務所で過ごすことになります。
しかも何が反政府行為であるかの判断は、中国政府から派遣された法執行者の一存で決まり、香港自治政府はその判断に干渉できません。
結局のところ、中国政府の気に入らない人物を自由にに逮捕して、中国内地に連行し、そのまま一生刑務所に入れておくことができてしまうわけです。刑務所内で殺されてしまう人もいるでしょう。
このような香港にもはや自由は存在しないといっていいでしょう。
さっそく大量の逮捕者が
とはいっても、私は、この法律は実際には各国の顔色を見ながら、ゆっくりゆっくり適用されていくだろうな、と思っていました。
しかし早くも施行初日に、この考えは甘かったことが判明しました。
7月1日から2日朝にかけて、なんと370人の香港市民が逮捕されてしまったのです。しかもこの人たちは大々的な反政府デモをやっていたわけではありません。
香港人はさすがに賢いので、7月1日の香港は平静を保っていました。連日続いていた反政府デモは影を潜め、表立って外に出て中国政府を批判する人はほとんどいませんでした。中国政府がどう動いてくるのかをとりあえず見極めようということです。
この状況で、中国政府の命を受けた香港警察は、徹底的な職務質問と持ち物検査を行います。そこで鞄の奥に「香港独立」と書かれた旗が丸まって入っていたのを見つけ出し、香港国家安全法違反で、逮捕したというわけです。
そのほかにも、香港独立ステッカーを所持していたり、街の真ん中で「香港独立!」と叫んだ人など10名を香港国家安全法違反で逮捕したというわけです。
残りの360人の人たちはなぜ逮捕されたのでしょうか?この人たちは、まずは10名の人たちが逮捕されたときにたまたま周りにいた人たちです。「そんなことで逮捕するの?」と疑問を投げかけた人たちを片っ端から逮捕したのです。
あとは飲み屋や飲食店などで、ひそひそ話をしていた人たちです。「おまえたち、中国政府を批判したな!」ということで片っ端から逮捕したのです。まぁ、実際にひそひそと中国政府の悪口を言っていた人も多かったとは思いますが。
この人たちは速やかに中国内地に送られました。そこで秘密裁判が行われ、政府を批判したという罪を着せられ、もれなく刑務所行きとなるでしょう。何をもって政府批判とするかは、内地の裁判官が自由に決めることができるのですから。
各国の反応
香港国家安全法施行に際して、世界各国は一斉に反対の声をあげました。なかでも最も激烈な反応を示したのはアメリカ合衆国です。
トランプ大統領は、香港国家安全法の施行によって、香港はもはや中国の一部になってしまったとのべ、これまで香港に認めてきた貿易や金融、渡航における優遇措置を廃止すると述べました。
これらの措置が香港にとってどのような意味を持つかについては、次の記事で詳しく解説したいと思います。
イギリスのジョンソン首相は、香港市民のうちの300万人にイギリス市民権を与え、イギリスへの永住が可能となる道を開くと述べました。
イギリスは言わずと知れた香港の旧宗主国です。旧宗主国が、責任を取って香港住民を引き取るのかと思いきや、この話には裏があります。
イギリスが引き取るのは、1997年の香港返還前にすでに香港に住んでいた3000万人だけです。返還以後に生まれた人や、返還以後に香港に移住してきた人たちは対象外ということです。
香港の運命は?
今後香港は中国の一都市として、中国本土に吸収されていくでしょう。香港市民は、資産を持って海外に移住を企て、逃げ遅れた市民は中国当局に捕まって連行されていくでしょう。
香港は現在所持しているアジアの金融センターとしての地位を失い、外国の投資家は香港から一斉に資金を引き揚げていくでしょう。外国企業も一斉に香港から逃げ出していくと思われます。
これらの事態は、確かに香港市民にとっては、悪夢以外の何物でもありません。
しかしこれによって最大の不利益を被るのは、ほかならぬ香港市民でも、アメリカでも、イギリスでも日本でもなく、中国政府および中国共産党であると思われます。
なぜなら香港国家基本法の制定は、中国共産党にとって、自殺行為以外の何物でもないからです。
次回に続く→