西洋医学の黎明期
現在では、世界中に病院が林立し、病気やけがの治療が行われています。
そこでは「医学」と呼ばれる学問体系に基づき、それぞれの症状に応じて、薬剤が処方され、各種検査や手術が行われています。
現代広く行われている西洋医学が成立したのは、わりと最近で、19世紀後半の、パスツールおよびコッホからです。
それまで19世紀初頭から中盤にかけて、病気の原因とその治療法についてのさまざまな意見が議論されてきました。
その中で優勢だったのは、「ミアズマ(瘴気)説」と「コンダギオン(接触)説」です。
ミアズマ説は、病気はミアズマ(瘴気)と呼ばれる悪い気に触れることで発生するという説です。
コンダギオン説とは、病気は病気をひきおこす原因を持つ人や動物、腐敗物質などに触れることによって発生するという説です。
この両方の説をそれぞれ発展させる形で、19世紀後半には、パスツールの唱える「細菌説」と、ペッテンコーファーの唱える「環境説」が有力になりました。
パスツールの細菌説は、(1)細菌がヒトに感染し、(2)ヒトの体内で腐敗物質を作り出し、(3)その腐敗物質が毒素になり発病する、というものです。
まず体内に細菌が侵入し、それが体内で分裂して増殖し、毒素を出して、病気になるという説です。
逆に言うと、細菌説では、体内に細菌が入らないと病気にならず、その体内に入った細菌こそが、「病原体」である、ということです。
ベッテンコーファーの環境説は、(1)ヒト体内の細菌(これはそのままでは病原性を持たない)が排泄されて土壌や水を汚染し、(2)汚染した細菌が土中や水中で増殖して腐敗物質を作り出し、(3)その腐敗物質がミアズマとしてヒトに作用して発病させる、
というものです。
衛生状態が悪いところで、細菌によって大気や水の状態が悪化し、腐敗物質を出して、それが病気を引き起こす、という説です。
環境説では、毒素を出す原因は細菌であることもあるが、工場の廃液やばい煙であることもあり、病気になるために必ずしも特定の病原体となる細菌は必要としないわけです。